最高裁判所第二小法廷 平成元年(あ)1270号 決定 1991年10月25日
本籍
京都市南区吉祥院這登東町四四番地
住居
同南区吉祥院船戸町二五番地の一一
会社役員
渡守秀治
昭和二二年六月七日生
右の者に対する所得税法違反、相続税法違反被告事件について、平成元年一〇月三日大阪高等裁判所が言い渡した判決に対し、被告人から上告の申立てがあったので、当裁判所は、次のとおり決定する。
主文
本件上告を棄却する。
理由
弁護人小島孝、同豊岡勇の上告趣意は、憲法八四条違反をいう点を含め、実質において単なる法令違反、事実誤認の主張であって、刑訴法四〇五条の上告理由に当たらない。
よって、同法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 大西勝也 裁判官 藤島昭 裁判官 中島敏次郎 裁判官 木崎良平)
平成元年(あ)第一二七〇号
○ 上告趣意書
所得税法違反、相続税法違反
被告人 渡守秀雄
右被告人に係る頭書上告被告事件につき弁護人らの申立てる上告の趣旨は左記の通りであります。
平成二年一月三〇日
右被告人主任弁護人 小島孝
同被告人弁護人 豊岡勇
最高裁判所第二小法廷 御中
記
上告の趣旨
一、原判決には、事実上の重大な誤認と、併せて憲法第八四条その他の法令の解釈適用の誤があり、そのため同判決のもたらす結果は著しく正義に反するものであるから、貴庁におかれこれをご破棄の上、被告人に対し無罪のご判決を賜わりたし。
上告の事由
第一、国税当局の認知と指導に基く全日本同和会の税務対策の一貫としてなされた本件各納税手続は適法。
原判決は被告人らの関与してなした本件各納税手続は何れも所得税法乃至相続税法に違反した所為である旨断じているが、かかる認定をなした同判決には、事実の重大な誤認に基く法令の解釈適用に著しい誤りがある。
一、解放同盟の税務対策に対する国税当局の行政上の法的認知。
(一) 部落解放同盟の昭和三五年以降今日迄の一貫せる税務対策について。部落解放同盟は部落民らに対する差別撤廃を目的とする部落解放運動の一環として「部落民らの経済的地位の向上」の旗職のもとに、所謂同和課税減免の実現を目的とする税務対策を、つとに昭和三五年当時から国税当局と交渉協議の上でこれを実施し、同盟傘下の企業連合等を介し、所謂ゼロ申告ゼロ納税の方法を以てこれを繰返しつつ現在に至っていることは殆ど半ば公知の事実となっているものである(記録中、木村美代治証人調書参照)。
(二) 部落解放同盟の税務対策に対する国税当局の法的認知。
前記の通り部落解放同盟のなす昭和三五年以降の税務対策は、その後毎年、国税当局より右所謂ゼロ申告ゼロ納税の方式の儘これをその都度事実上、一種の行政処分として認諾されてきたのであるが、その後、
1、総理大臣が同和対策審議会に対してなした諮問に対して、昭和四〇年八月一一日でなした「同和地区に関する社会的及び経済的諸問題を解決するための基本的方策」と題する答申、
2、次いで同答申を実施する手段として昭和四四年七月一〇日付で制定施行された同和対策事業特別措置法。
3、更に同法の精神に立脚し、同法中には未だ具体的に条文化されていなかった「同和地区住民らの経済的地位の改善」のための所謂同和課税減免を法的に実践する手段として、昭和四五年二月一〇日付で全国各管区国税局長宛に発せられた「同和問題について」と題する国税庁長官通達等を以て、先に部落解放同盟の手による税務対策の一般的方式を以て前掲の通り所謂ゼロ申告ゼロ納税の形態で事実上既に実現されつつあった所謂同和課税減免の措置が、ここに漸くにして法的に認知された慣行として国税当局によって正式に認容され、現に、全日本同和会京都府市連合会の名に於て本件各納税申告手続が、或いは所得税法違反に該当し、或いは相続税法違反に該当するものとしてそれぞれ検挙され引続き公判に付された後に至っても、今日なお且、部落解放同盟の手になる税務対策、引続き所謂ゼロ申告ゼロ納税の形態の儘全てこれが認容されるという行政処分としての措置が今日に至るも引続き継続されている(前掲木村証人調書参照)。
二、全日本同和会京都府市連の税対の陳情と国税当局の応諾
(一) 全日本同和会京都府市連下部会員らからの税対の要望。
昭和五五年夏頃、全日本同和会京都府市連合会の下部、殊に同会八幡支部等の会員達の間から「部落解放同盟所属の部落住民らは支持政党である日本社会党の強力な政治的支援の故か、所謂ゼロ申告ゼロ納税の著しい課税上の優遇を受けているに拘らず、同じ同和地域関係住民である全日本同和会所属住民らは支持政党である自由民主党の支援がない故か、所謂同和課税優遇に浴しえない儘に放置されているのは矛盾不公平である」から、この際、全日本同和会としても速やかに国税当局に陳情してご同意を得た上、向後は同和会関係住民らに対しても部落解放同盟の場合と同様の税務対策を実施し、同様の課税上の優遇が受けられるよう善処をして貰いたい旨、また現に全日本同和会傘下でも大阪府連合会では大阪国税局同和対策室の承認を得て同会傘下所属住民らのための税務対策を実施し、所謂同和課税減免の優遇措置を受けている実例がある旨など強硬な意見や要望が盛り上がり、そのため同和会京都府市連合会本部がこれら下部からの突き上げを受ける形となった。
よって同和会京都府市連本部では、当時同府市連会長であった西田格太郎や事務局長の槍丸冨貴男が中心となって構想をねり、同副会長鈴木元動丸、同会亀岡支部長であった長谷部純夫や右本部事務局員渡守秀治らがこれに協力し、昭和五五年九月三〇日の同府市連本部役員会、同年一一月一一日の同理事会、同年一一月三〇日の仮称税務委員会に於てそれぞれ引続き協議の結果、同府市連としても、従来部落解放同盟が実施してきた税務対策と同様の手続方法をとることとし、これに対して同盟に対すると同様の取扱いを全日本同和会に対しても認容して貰えるよう国税当局に陳情し、以て速やかに同和会所属住民らが右同様の優遇の恩恵を受け得るよう善処する旨の方針を機関決議した。
(二) 全日本同和会京都府市連の陳情と国税当局の対応。
前記の事情から全日本同和会京都府市連合会の代表者らは、同和会大阪府連合会役員らの案内で昭和五五年一二月二日大阪国税局同和対策室を訪れ、同局を代表する幹部職員らに前記の趣旨を陳情した結果、同当局側では原則論として同陳述の趣旨はこれを了承したものの、何分にも全日本同和会は部落解放同盟のように革新をスローガンとする団体ではなく、現体制支持の政治路線に立脚しているのであるから、同盟のようなゼロ申告ゼロ納税ではなく、行政に協力するという意味で何がしかの納税、例えば正規税額の五パーセントとか一〇パーセント程度でも具体的に納税して貰いたい旨、また、同和会京都府市連合会傘下所属住民らの納税については京都府下の各税務署が具体的にこれを管轄することになるから、予め大阪国税局の手でセットする期日に、同和会京都府市連の代表者らが、京都府下で筆頭の立場にある京都上京税務署で同署を代表する幹部職員との協議話合により、全日本同和会京都府連合会のなす税務対策についての具体的取扱やこれに関する手続等につき取り決めをされたい旨の回答があった。
その結果、同和会京都府市連代表者らは同年一二月八日、京都上京税務署を訪れ、同署署長、総務課長ら幹部職員と面接し、先の大阪国税局当局に対してなしたと同様の陳情の結果、同税務署側ではこれに対し、既に大阪国税局から当該問題については指示連絡があったので、同指示に基き同和会側からの陳情の趣旨は充分にこれを受入れる旨を表明する共に、先に大阪国税局側が同和会京都府市連代表らに提示した原則に従い、向後、京都府下の各税務署では、同和会京都府市連側の税務対策担当責任者の手を介して各署の総務課長を受付窓口として提出される個々の納税者らからの納税申告書については、所謂同和課税減免の優遇措置を適用する取扱をすることとするから、これらの個々の各具体的な申告手続については、夫々所轄税務署で同和会関係の窓口を担当する総務課長ら幹部職員との間でその都度話合いの上、具体的に税務対策を進めるよう、また先の大阪国税局側から同和会側に示された指導方針通り、同和会京都府市連の税対の場合は、部落解放同盟が押し通してきているようなゼロ申告ゼロ納税の如き極端な方式は執らず、正規税額の五パーセントや一〇パーセント程度の納税はこれを励行して行政に協力して貰いたい旨の指導が与えられたものである。
(三) 同和会京都府市連の税務対策の具体的実施とこれに対する当局側の具体的指導の状況。
この間に同和会京都府市連合会本部では昭和五六年一月末日の役員改選の結果、同本部事務局長に就任した長谷部純夫が同本部の税務対策担当責任者に選ばれ、同本部の税務当局側との間での税務対策上の連絡や交渉を統轄専従することとなり、また渡守秀治が同事務局次長の地位に配置され、更にその後、内藤光義が併せて同次長の地位に就き、長谷部の指示指令により同人の走り使い役を担当する、という体制が整備された。
ところで右長谷部事務局長が前記の如き同和会側と税務当局側との間の了解事項に基き、昭和五六年二月一五日から各税務署で受付の開始された昭和五五年度分の確定申告手続を、同府市連傘下の同和関係住民らのために代行するに当り、長谷部としては前記の通り税務当局からの同和会宛の指導方針に従い、これら各納税者らの具体的納税額が正規納税額の五パーセント乃至一〇パーセントの枠内に収まるような納税申告手続をするためには具体的には何のような技術的方法によればよいものか、全く見当もつかなかったところから、長谷部としては差当たり右納税申告手続代行のため訪れた先の京都下京、同右京、伏見、それに園部等の各税務署でそれぞれ受付窓口を担当した総務課長や所得関係の統括官ら幹部職員に対してこの点の相談を持ちかけた結果、これらの各担当官側から何れも、同和会側が各納税者らのために代行提出する各納税申告書にそれぞれ一応その所得金額を計上すると共に、これと同時に然るべき金額の「取得原価該当支出金」「貸し倒れ金」それにその他必要債務支払弁済金等を課税控除項目として計上記入し、それによって各自の「差引正味課税金額」が恰度、正規税額の五パーセント乃至一〇パーセントにまで圧縮削減されるように調整をした上、これらの課税控除項目を具体的に裏付ける領収証その他の疎明資料をそれぞれ然るべく作成し、これを各納税申告書に添付して税務当局側へ提出し、その結果として所期の同和課税減免の優遇を受ける、という方式を前記税務当局側から示唆指導取れた。謂わば当局側指導による「同和課税減免用の官製同和会専用納税申告方式」とも呼称すべきものであった。
(四) 同和関係納税者の正味所得金額と優遇納税用課税対象金額との段差調整用疎明資料作成についての当局側からの事務処理技術の指導について。
前記の通り税務当局側から謂わば同和課税減免用の官製同和会専用納税申告方式の指導に与った同和会京都府市連で、税務対策担当責任者である長谷部事務局長が、個々の同和関係納税者らの各正味所得金額とその五パーセント乃至一〇パーセントに該当する謂わば同和優遇課税対象金額との格差調整用疎明資料となるべき「然るべき領収証」の作成に早速具体的に取組むに至った。
1、ところで、これらの「然るべき領収証」の各一通ごとに、架空の領収証、作成名義人の住所氏名等をいちいち創作設定する事務上の繁に耐えかねたところから、右長谷部は前記の京都、下京、右京、伏見等の各税務署を歴訪し各署の担当統轄官に対し右の困難な実情を訴えると共に、この際税務当局側におかれては同和会側に対し先に一旦指導相成った謂わば官製同和会専用納税申告方式を撤回して頂き、同和会側からの同和関係納税申告についても、当局側が多年に亘り部落解放同盟の税務対策納税申告手続について容認してこられた通りの所謂ゼロ申告ゼロ納税の書式による納税申告書を提出させ一応これを受理して頂き、且つ具体的実務的には同和会の手でこれら各同和関係納税者毎に、先に一旦提出済みのゼロ申告ゼロ納税申告書に記載の所得金額から税法上算出される各自の正規税額の五パーセント乃至一〇パーセントに該当する金額を同和関係優遇課税金額として納税する、という方式で、全日本同和会関係の税務対策についての所謂同和関係優遇課税減免の実務をご処理願いたい旨を陳情した。
2、これに対し京都右京税務署や同下京税務署の担当官らからは、右長谷部らの陳情に対し、
(1) 同和会側から税務当局に対し、部落解放同盟と同様のゼロ申告ゼロ納税方式の申告書を一旦提出させてこれを受理しておきながら、これらの各申告案件について、正規税額の五パーセント乃至一〇パーセントに限らずなにがしかの具体的納税を更正決定手続を省いて徴収するということは課税技術上不可能である旨、
(2) 従って、同和会側が課税控除額の裏付疎明資料たるべき領収証等の書類を作成するについて、いちいちその作成名義人の住所指名の創作設定が繁に耐え難いということであば、例えば同和会側でこれら書類の作成名義人の受け皿となるための法人を設立するというのも一方法であろうし、殊に当該法人の名称の一部に「同和」という字句が含まれているならば、当局側としては係官がこれを一見しただけで容易にそれが同和会側税務対策の一環として当局へ提出された納税申告書添付の課税控除額裏付疎明資料であることが判別できるから、実務上も頗る便宜であると思われる旨
などの示唆指導が与えられた。
3、そこで長谷部らは右の通り納税当局側から与えられた実務上の具体的な示唆指導に基き、課税控除額裏付疎明資料である領収証等作成名義の受け皿の役割を担う法人として、特に「同和」の字句を商号の一部に取入れた有限会社同和産業を設立する構想を取りまとめ、恰も当時昭和五六年四月頃は全日本同和会京都府市連合会西田会長が老衰病臥中で長期執務不可能の状態であった事情に鑑み、当時会長事務を代行していた副会長鈴木元動丸や同会事務局次長であった被告人渡守秀治らと協議の上、その頃早速右鈴木副会長らの手で有限会社同和産業を設立するに至ったものであった。
(五) 昭和五五年度分以降の、税務当局指導方式による同和会の税対活動の継続。
全日本同和会京都府市連では右一連の税務当局の、謂わば同和課税優遇減免の中、同和会専用方式の同和関係者納税申告手続として、昭和五六年春の昭和五五年度分確定申告を皮切りに、その後本件検挙に至る迄の間、実に殆んど五年後の久しきに亘り、しかもその数は実に前後合計数一〇〇件に達する大量の納税申告手続を反復継続しており、且つそれらの各申告書には何れも同様形式の上、全て同和会税対申告書であることを示す同のゴム印が押捺され、その上これら申告書に添付された課税控除額裏付疎明資料には何れも「有限会社同和産業」の文字と名称とが明確に表示され、従ってこれら大量の納税申告書が同和会税対手続によるものである事実は税務当局の担当係官らには一見して識別可能の状態で、しかも毎年繰返し大量に提出され続けたにも拘らず、その間これらの申告件数の中で、税務調査や係官からの呼出質問を受けたような実例は一件もなく、何れも全くフリーパスの形でこれらの著しい優遇課税が反復継続されたばかりでなく、これらの課税減免の切り札とされた課税控除額裏付疎明資料たる領収書に終始一貫してその作成者名義を出し続けていた有限会社同和産業に対する税務調査などはついに一度もなされなかった、という厳然とした歴史的且客観的な事実に徴するも、前記の通りの同和優遇課税減免手続についての開放同盟方式であるゼロ申告ゼロ納税の形態と並んで、特に同和会専用方式としての、納税申告書に課税控除額裏付疎明資料として有限会社同和産業作成名義の領収証等を添付して、以て実際の納税金額を減免する形態なるものは、単に京都市右京税務署乃至同下京税務署の一担当官の単なる思いつきによる個人的私見ではなく、実は税務ご当局の一般的な見解であり、前記の通りの方式による納税申告手続は国税ご当局により同和会側の税務対策手続に対して有権的になされた責任ある行政指導そのものであった事実は論議の余地のないところである。
(六) 本件各納税手続の適法性。
本件各納税手続は、前記の通り、昭和五五年度分確定申告手続当時からその後実に前後五年間の久しきに亘り引き続き税務ご当局から何れもご当局の行政指導に従ってなされた同和優遇課税減免に係る同和会税対専用方法によるもの、として適法妥当の取扱を受けてきた同和会税務対策の一環としてなされたものに他ならない。
第二、原判決の事実誤認と、法令の解釈適用の誤り。
一、税務当局の同和優遇課税減免に係る、同和団体の税務対策の認容。
(一) 税務当局は前記の通り昭和三五年当時から、部落解放同盟が反復継続している所謂ゼロ申告ゼロ納税の方式による税務対策を実に前後過去三〇有余年を経た今日に至るも現に引続きこれを認容している。
(二) また当局は全日本同和会京都府市連合会が当局の行政指導に従って、謂わば同和優遇課税減免に係る同和会専用方式とも称すべき前掲の如き、課税控除額裏付疎明資料の任意添付による同和会税対納税申告手続を、少くも昭和五五年度確定申告当時からその後本件検挙に至る迄前後実に五年間に亘ってこれを引き続き認容してきた。
二、税務当局の部落解放同盟乃至同和会に対する同和優遇課税減免認容の法的根拠について。
税務当局が右の通り部落解放同盟および本同和会のなす各税務対策を何れも同当局のなす課税上の行政処分の一環としてこれを適法の納税申告、従ってまたこれをその儘認容してなされる課税の減免も適法のものとして処理されてきた法的根拠は、既に今日までにつとに明らかな通り、
(一) 昭和三〇年当時、内閣総理大臣の諮問に対して同和対策審議会によりなされた答申、
(二) 右答申に基いて、これを法制化するため国会において議決制定施行された同和対策事業特別措置法、
(三) 右特別法の精神に立脚し、同和地区関係住民らの経済的地位の向上を図る目的のもとに、その一環としてこれら住民に対する課税優遇減免措置のための具体的条文を右特別法が明定しなかった不備を補うため、特に国税庁長官において発せられた、所謂長官通達第二項
が明示された結果、
(四) 憲法第八四条所定の所謂相続法定主義と通達との関係につき昭和三三年三月二八日付最高裁判所によって明らかにされた判例(民集一二-四-六二四参照)に、通達による新たな課税が右憲法の規定する租税法律主義に適合する適法の課税と解されるものである以上、通達による課税の減免もまた右の租税法律主義に適合する適法の行為とする解釈
に立脚するものと謂うほかないところである。
三、原判決は事実を誤認し、且法令解釈とその適用を誤る。
原判決は、
本件各納税申告手続に際しては被告人や各納税義務者らがそれぞれ共謀の上、各自何れもその課税控除額裏付のための資料を有限会社同和産業名義で偽造し、これを添付してそれぞれ納税申告手続をなし、よって税務署係官を欺罔して納税の義務を逸脱し、以て所得税法乃至相続税法に違反をした、
旨認定している。しかしながら右の認定は、
(一) 本件各納税申告手続は全日本同和会京都府市連合会が、前記の通り、つとに昭和五六年当初頃に税務当局から、同和優遇課税減免に関する謂わば同和会専用方式として同和会のなす税務対策について全て同方式に準拠すべき旨を行政指導がなされ、その結果、同和会がその税対処置として昭和五五年度分確定申告手続以来、本件検挙に至る迄、過去前後五年有余に亘って実施し、その間何れも税務当局の所謂同和課税減免のための行政処分として認容されてきた継続的な同和会の税務対策の一環としてなされたものである事実を誤認し、これを税法違反の所為であると速断したものである。
(二) 加うるに、税務当局による右の通りの、同和団体のなす税務対策は何れも、部落解放同盟の場合たると、全日本同和会の場合たるとを問わず、何れも、前記国税庁長官通達第二項により、何れも憲法第八四条所定の租税法律主義に適合した課税の減免措置として適法有効のものとの解釈に基き、これを何れも認容してきたところであるに拘らず、かかる租税法律主義の原則に準拠し適法妥当な基準に従い、被告人や本件各納税者らが、全日本同和会京都府市連合会の税務対策の一環としてなした本件各納税申告手続を以て何れも所得税法乃至相続税に違反する所為なりと断ずることは、右国税庁長官通達及び同通達によって憲法第八四条所定の租税法律主義の原則に適合する同和課税減免の法則を看過し、従って右のこれら法令の解釈適用を誤った違法あるものと解するほかないものである。
第三、原判決は著しく正義に反する。
一、前記の通り、部落解放同盟の税務対策は所謂ゼロ申告ゼロ納税の極端な方式の儘、同和優遇課税減免の行政措置として過去三〇有余年間に亘り今日に至るも尚引続き認容されており、況んやこれに対し司法処分がなされた事実は未だ寡聞にしてこれを耳にしないところである。
二、同和会が税務当局からの行政指導に基き、昭和五五年度分確定申告手続以降前後五年有余に亘り、同和会税務対策として反復継続してきた納税申告手続前後合計数一〇〇件もまた、何れも当局による行政処分の基く適法の納税として全て認容されてきた事実は前記のとおりである。
三、にも拘らず、右の税務当局の行政指導により同和会がその税務対策として終始反復継続し且つ何れも適法の手続きとして公然と認容されてきた方式その儘にこれを準拠し、右同和会の税務対策の一環としてなした本件納税申告を俄かに所得税法違反乃至相続税法違反の所為なりとしてこれを処罰せんとする原判決は、近代法制の理念とする正義と衡平を無視し、現在尚極端に手厚い課税減免の特典優遇を享受している部落解放同盟関係納税者らと、本件被告人および各納税者らとの間の公平均衡を忘却し、著しく社会主義に反する違法あるものに他ならない。
第四、所見。
貴庁におかれましては右の如き諸般の事情をご参酌相成り、原判決をご破棄の上、被告人に対し無罪のご判決を相賜わりたく思料します。
以上。